第38回:コミュニケーションは変化する

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月25日

土曜日の夜8時半、見知らぬ番号から携帯に電話がありました。

「久しぶり!志水君、元気?」
なんと高校の同級生から、20年ぶりの連絡です。聞けば東京在住組による同窓会の最中らしく、お酒も入った勢いで、私に電話をしてみようということになったとのこと。憶えていてくれたことが嬉しく、一人ずつ電話をまわしてもらって話をしたのですが、集まっていたのは8人。ほんの少しの近況報告が一巡したときには小一時間が過ぎていました。しかも、こちらは同じ話を8回もしているのですから、何とも非効率です。こんな「プライスレス」な時間にもコミュニケーション効率を考えてしまうのは専門家の悪い癖だと反省しつつも、最近の情報交換スタイルがすっかり変わってしまったことを再確認しました。

ここ十数年の知人であれば、メールで一斉に連絡が取れます。ここ5年ぐらいの知人であれば、ブログやミクシィ、フェースブックなどで、常に近況を知ることもできます。ここ1-2年の知人に至っては、「今」何をしているのかをツイッターでフォローできますから、しばらく会っていなくても、近況報告抜きでいきなり本題に入れるのが「普通」になっています。

「普通」は人によってそれぞれですが、一旦普通になってしまった方法から元に戻るのは、とても不便でまどろっこしく思えるもの。人間の適応力というのは恐ろしいものです。

「アメーバなう」や「グーグルバズ」など、新しいサービスも登場していますし、ゲーム機や電子ブックリーダーなど、通信に使われるプラットフォームもますます多様化していきます。これからも進化し続けるコミュニケーションに、私たちは適応力を発揮し、生活スタイルを変え続けることでしょう。

加速度的にスタイルを変え続ける顧客に対応するため、企業は様々な動きに敏感でなくてはいけません。また、ターゲットユーザーはそれぞれのスタイルに細分化されていくため、複数のコミュニケーション手法を同時並行でプランしていくことも求められます。マスメディアによる大きな括りのコミュニケーション一本の時代から、企業対個人の細やかなコミュニケーションへとステージは移行しているようです。

件の電話口では、これからも情報交換ができる方法をいろいろ提案したのですが、同窓会にフェースブックやツイッターのユーザーは少なく、協議の結果「連絡はミクシィのコミュニティで」という事に落ち着きました。どうやら花の40歳も、ミクシィなら対応可能という事のようです。

(2010/02/24 中部経済新聞掲載)

第37回:Webが朝礼を有意義にする

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月18日

「みなさんおはようございます!まずは今日の担当坂根より『Webブランディングの評価軸』について発表させていただきます。」

毎週月曜日、当社で行われている朝礼の光景です。持ち回りで担当を決め、各自の専門分野を中心にテーマ設定した、10分間のスピーチ。新しい技術の発掘や、社内の情報共有が進む取り組みとして、実施されている企業も多いかもしれません。このような場でも、ネットを活用することで価値や効果が向上します。

漫才選手権の「M1グランプリ」をまねて、「S1グランプリ」というタイトルで実施している私たちの朝礼は

・顧客に対するプレゼンテーションレベルの向上
・各メンバーが持つノウハウの共有
・互いにプレゼンスキルを上げるための切磋琢磨

に目的をおいています。

聴き手にまわる社員は、内容を共有するだけではありません。質問役、審査員役として、仲間のプレゼン力向上に貢献する重要な役割を担います。もちろん、当社ではWebの技術も重要な役割を担います。S1グランプリを楽しく、わかりやすく機能させるため、イントラネット上には「S1グランプリホームページ」が用意され、各回のスピーチ内容の確認と、投票が「いつでも簡単に」できるようになっています。

事前に準備した「ネタ」を、大型スクリーンを使った「スピーチ」で表現した直後から、各社員のPCから「投票」が始まります。

切り口の面白さや構成、資料のクオリティといった内容に関する評価から、発表の際の姿勢や表情、声の大きさや滑舌のよさといった表現に関する評価まで。それぞれを6段階評価でサイト上から投票し、感想やアドバイスを書き込みます。こちらは無記名で表示される仕組みになっているため、先輩・後輩も関係なし。「次回のクオリティ向上につながる意見」はお互いに投げ合うエールのようなものです。

投票されたデータは、リアルタイムに処理され、グラフ化されます。もちろん選手権ですから、順位によって表示が並び替えられるという、少々シビアなゲームシステムです。

データベース化され、蓄積されたスピーチの価値は、確認・改善の段階で発揮されます。各スピーチは、録画・エンコードされ、各参加者がWebでいつでも確認できるように準備されています。自分のスピーチを自分で観察する機会というのは意外と少ないものですが、S1ホームページでは、投票の結果やアドバイスと合わせて観ることで、自分の癖や改善ポイントを見つけることができるのです。

多くの人数、貴重な時間をかけて行う朝礼。コストに見合うプロジェクトになるよう、Webを使ったアイディアを取り入れてみませんか?

(2010/02/17 中部経済新聞掲載)

第36回:AR、拡張する現実

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月11日

AR(オーギュメンテッド リアリティー)と呼ばれる、「拡張現実」技術が注目を集めています。

私たちの現実感覚に「ネット経由の情報」を付加し、より便利で楽しい体験に変化させる。少し前までは、SFやマンガの世界と思われていたサービスが、無料で提供され人気を博しているのです。

道ばたでiPhoneを掲げて、カメラ越しに景色をのぞく人たち。写真を撮っているわけでもなさそうだし、何を見ているのかな・・・。という状況に出会ったら、それは人気のソーシャルARアプリ「セカイカメラ」かもしれません。

セカイカメラは日本製のiPhoneアプリケーション。彼らが見ている町の景色には、「エアタグ」と呼ばれる情報の「吹き出し」が浮かんでいます。あのビルに入っている飲食店の口コミ情報やクーポン情報が表示されるとか、あの美術館で今開催されている展覧会の情報や作品のビデオが見られるとか、そんな具合に「情報が付加された現実」が画面に映し出されているのです。

これは、iPhoneが装備している

1.カメラとモニタ
2.インターネットにつながる機能
3.位置情報を確認できるGPS機能
4.見ている方位を確認でいるジャイロや加速度センサー

によって実現しており、ユーザーは無料のアプリをダウンロードするだけで、すぐに利用することができます。実際に吹き出しになっているタグ情報には、ユーザーが書き込んだものも多く、もちろん自分も書き込めます。ユーザーの参加によってどんどん面白くなるこのプラットフォームは、より現実社会に近い「ソーシャルメディア」だと言えるかもしれません。

iPhoneをお持ちの方は、ぜひ体験してみてください。カメラ越しに街をぐるりと見渡したとき、ユーザーが投稿した吹き出しがフワフワと浮かんでいる様子、「インターネット社会がリアルに再現」されている感覚が実感できます。

携帯端末やPC向けのサービスとして、他にも多く発表されているAR。今のところ、ゲームやコミュニケーションの分野での活用が多いのですが、今後はビジネス活用も拡がると考えられています。例えば楽天トラベルは、国内2万3千件の施設情報をセカイカメラに提供しており、視界に入っているホテルの上に浮かんでいるエアタグで、宿泊料金やお部屋情報を見て、実際に予約ができるそうです。

携帯端末やPCで培われた技術は、専用のデバイスに置き換えることでもっと面白くなりそうです。「ARメガネ」をかけているだけで、レストランやバスの路線が検索でき、地下鉄で向かいに座った人のプロフィールやブログが見られる。そんな生活も、そう遠くないかもしれませんね。

(2010/02/10 中部経済新聞掲載)

第35回:読書が変わる?iPadと電子書籍

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月4日

米アップル社から、遂にタブレット型コンピュータ「iPad」が発表されました。

9.7型の液晶画面をタッチして操作するiPadは、少々乱暴に言えば、「大型で高機能なiPhone」のような製品でしょうか。ワイヤレスLANや3G携帯ネットワークに対応し、音楽や動画、アプリのダウンロード購入もできます。iPhone同様、ネットの閲覧やメールのやりとりが簡単なので、PCのヘビーユーザー以外はこれ1台で十分。そんな話もあながち冗談でないかもしれません。

私が最も興味を持っているのは、電子書籍プラットフォームとしての機能です。本を読むのに適した形状のiPadには、電子書籍の閲覧ソフトとして「iBooks」が用意され、電子書籍の店舗「iBookstore」が開設されます。残念ながら発売時点で日本国内からの利用はできないようですが、iBookstoreには、米国の主要出版社数社が参加を表明しています。

現在、電子書籍の先頭を走っているのは、インターネット書店最大のアマゾンが提供する、電子ブックリーダー「キンドル」でしょう。残念ながら日本語の書籍を入手することはできませんが、日本国内でも購入・利用ができますので、英書を読む用途にはおすすめです。最近のアマゾンは注文翌日に配達されるほどの「出前迅速」ぶりですが、キンドルへのダウンロード販売であれば「1分以内にお届け」。人気の新刊やベストセラーも低価格で購入できるとあって、ユーザーは増えています。

電子ブックリーダーは、PCと違い「読む」ことに特化した端末。iPodの出現で、「自分の持っている音楽CDが全て持ち歩けるようになった」のと同様、「自分の本棚を全て持ち歩ける。」「自分の本棚が書店と直結している。」というのは、読書家にとっては夢のような話に思えるのですが、いかがでしょう。

もちろん、電子書籍が普及するためのキーがコンテンツにあることは言うまでもありません。

これまでの出版業界は、デジタルコンテンツと紙の書籍は別ものだと捉え、書籍のデジタル化には及び腰でしたが、電子書籍を楽しむための環境整備、それを求めるユーザーの存在は、業界やビジネスモデルを変える可能性を担っていると思います。

オンラインでの流通を含めたビジネスがきちんと整備されれば「活字離れ」のユーザーを呼び戻す、本格的な「電子書籍」の時代が訪れるのではないでしょうか。

個人的には、防水の端末で書棚をまるごとバスルームにもちこめるようになればと期待しています。

(2010/02/03 中部経済新聞掲載)

ページの先頭へ