第12回:オバマ大統領誕生支えた戦略

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年8月27日

2008年11月4日午後10時頃のニューヨーク、私は、熱気と興奮に包まれたタイムズスクエアに立っていました。

設置された巨大スクリーンに表示されているのは「バラク・オバマ、大統領に当選」の文字。初めてのアフリカ系大統領誕生の瞬間を祝う、この大騒ぎの真っ只中で、私はもう1つの歴史的事実に感動していました。

それは、史上最も多くの人々が「直接」参加した選挙だったという事実。最新のインターネット技術をフル活用し、若い世代と直接コミュニケーションをとり続けたオバマ候補が、従来のマスメディアを中心とした戦術で有権者に訴え続けたマケイン候補に圧勝した瞬間でした。

オバマ候補は、Facebook(日本のミクシィに近いSNS)内に専用のアプリケーションを公開、自分の活動やメッセージを毎日発信し続けました。そして、注目すべきことに、そのメッセージの下には「献金」をするためのボタンが設置されていたのです。20代の若い有権者たちは、毎日彼のメールを受信し、映像で演説を聴き、オバマ候補が訴える新しいアメリカを考え、コミュニティに参加する仲間と対話し、クレジットカードを片手に「献金」ボタンをクリックしました。

こうした100ドル、200ドルという単位の小額の献金が集まり、7億4500万ドルという、史上最高額の選挙資金が集まったと言われます。公的資金の提供を断り、直接有権者との接点から共感と活動資金を集める手法としては、最も洗練され、効果的だといえるでしょう。

ブログ、Twitter、SNS、口コミ、紹介、動画、カード決済・・・・・ インターネットの最新トレンドを活用した双方向コミュニケーションの巧さは、企業のコミュニケーション戦略上も参考になることばかりです。

当選が決定した約1時間後、地元シカゴ市内のグラント・パーク公園で、約24万人の聴衆が見守る中、オバマ候補はあの有名な勝利宣言をするのですが、実は、その前に支援者たちの携帯電話に一斉に届けられたメッセージがあるのです。友人に見せてもらったそのメールの書き出しに、私はコミュニケーションの本質を教えられました。

「親愛なる○○様 今、私は大勢の聴衆の前で勝利宣言をするため、グラント・パークに向かっています。でもその前に、まず「あなた」にお礼をいいたいのです。アメリカを変えているのは「あなた」なのですから。」

特別なタイミングに送られるべき、特別なメッセージが用意されていたのです。
これほど心を揺さぶるメールマガジンの演出を、私は見たことがありませんでした。

(2009/08/26 中部経済新聞掲載)

第11回:リターゲティング広告

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年8月20日

皆さんは、ネットで新しい商品やサービスを探す時、そのアクセスの間に注文や問い合わせを完了してしまいますか?

それとも、ある程度目星を付けたら後日また新たに検索をするでしょうか。実際には、商品が高額になるほど、またBtoBでの領域になるほど、検討作業の回数や期間は長くなる傾向にあります。意志決定までの間、ユーザーはネット上での情報収集を繰り返しますが、訪れた複数のサイトから最終的にに1つを絞り込む課程では、再来訪の回数が多い方が当然有利。サイト運営側としては、是非ともこの関与度の高いユーザーに再訪問してほしいところです。

このような状況で効果を発揮するのが、「リターゲティング広告」。

1.サイトやネットショップを訪れた事のあるユーザーを識別し
2.そのユーザー向けに、(広告ネットワーク上の)他のサイト内で再来訪を促すバナー広告を表示
することで、サイトに帰ってきてもらおうという仕組みです。

「ネットショップで商品を買い物かごに入れたが、購入処理を完了する前に用事ができてしまいそれっきり」というユーザーは実際かなり多いものです。そのユーザーが後日、他のニュースサイトでそのショップのバナーを見つけ、思い出して購入に戻ってきてくれる。」といったストーリーを想像できる企業には、とても有効なマーケティング手法といえます。

実際にサイトを訪問して何らかのアクションを起こしたユーザーにのみ表示されるため、ロスが少なく、広告主にもユーザーにも価値があるリターゲティング広告。「画期的な手法」に見えるこの仕組みにも、注意しなくてはならない問題があります。

それはプライバシーに対する感覚。

ユーザーの行動履歴を基本情報として運営されるこのシステムは、ユーザーを「追跡する」イメージを持たれかねません。

行動ターゲティングやリターゲティング広告の使い方は、今後、企業の接客態度として捉えられるケースも多いでしょう。
どの程度の情報量を預かってターゲティングを行うのか、どのレベルまでお客さまを「追いかける」のか、というバランスは、接客そのものであると私は考えています。

タイミングのいい時に声をかけてくれる店員さんはありがたいけれど、こちらは用もないのに、携帯に電話がかかってきてはたまらない。リアルなシーンでの接客スタイルと同じようなバランス感覚が、ネットでの顧客獲得の成否を決めるのです。

(2009/08/19 中部経済新聞掲載)

第10回:幸せな偶然をつくる技術

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年8月13日

引越しサービスに見積もりをお願いすると、通販カタログがもらえたりするものです。

ページを開けば、カーテンや家具など、新しい生活で必要なものが満載。普段はあまり興味のない商品も、転居のタイミングには大変魅力的に見えるから不思議です。「引越しを考えている人」=「新居のインテリアを考えている人」という公式に従ってユーザーをターゲティングすることで、普段であれば「邪魔な広告」が「必要な情報」に変化するのです。

今、そのサービス領域に興味のあるユーザー(例えば引越しを考えている人)を探しだす方法として、検索連動広告はわかりやすい例です。ズバリ「引越し会社」と検索しているユーザーは、きっと必要に迫られているのでしょう。ニーズ型の商品やサービスにとって、「検索結果に表示できる」検索連動広告が重要なのは当然です。

しかし、それだけで十分でしょうか。実際に引越しを検討している人の行動を考えてみましょう。彼は、「引越し」というキーワード検索を毎日のように繰り返すでしょうか?また、検討期間中に、引越しサービスのサイトを毎日訪れるものでしょうか?

答えはもちろんNO。ほとんどの時間は「引越し以外」のサイトを見ているに決まっています。となると、実は「それ以外の閲覧時間」が重要であるのもまた事実です。

ユーザーの閲覧履歴をもとに「この人は引越しを必要としている」といった嗜好性を分析し、そのメニューに出稿された広告を表示するのが「行動ターゲティング」広告。ユーザー行動に着目した技術は、検索連動型広告とは異なり、「引越し」と無関係の場面で広告を表示できるのが特徴です。

従来、「広告」の使命は、ユーザーの認知を獲得し、興味を持ってもらった上で売り場にお連れすることでした。この場合でいえば「ユーザーが引越について調べていないときに、引越しサービス会社について想起してもらう」ことにあたります。

「ニュースのサイトを見たり、料理のサイトを見ているときに、引越しの広告がよく表示される。」
「今ちょうど、引越しを考えているので、いつもなら気にしない内容も、魅力的で便利な情報になっている。」

この「幸せな偶然」を、意図的につくりだす技術が、行動ターゲティング。

さて、御社の顧客との関係性には、どんな「幸せな偶然」が待っているのでしょうか。

(2009/08/12 中部経済新聞掲載)

第09回:ターゲティング技術

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年8月6日

アドネットワークは、インターネット上の「小さなメディア」を束ね、広告メディアとしての力を大きくすると同時に、より目的にあった運用をするためのシステム。

前回は、「様々な銘柄の債権をポートフォリオで運用するファンドのような感覚」とご説明しました。ちなみに、広範囲な領域のメディアを束ねるアドネットワークを水平型(ホリゾンタル)アドネットワーク、特定の分野に特化したメディアを束ねるアドネットワークを垂直型(バーチカル)アドネットワークと呼びます。

私は昨 年11月、ニューヨークで開催された広告テクノロジーのカンファレンス「ad:tech」に参加してきたのですが、様々なアドネットワークがひしめき合いな がら、各ネットワークの独自性をアピールしている様子は圧巻。垂直型の統合についても積極的に進められており、アメリカの消費者、広告業界がかなりネット 社会に進んでいることを感じずにはいられませんでした。

ネット広告が従来の広告と圧倒的に異なるのは、ユーザーのターゲティングによる「広告の情報化」です。アドネットワークは、広告をまとめるだけでなく、様々な方法でユーザーをターゲティングし、広告への関与度を高め、「広告価値をあげる」技術。「行動ターゲティング」、「エリアターゲティング」、「属性ターゲティング」、「リターゲティング」など、興味層を特定する方法も様々に進化しています。

アドネットワークに加盟するメディアは、広告の配信枠を提供するだけでなく、実は、行動履歴を取得するという重要な機能を持っているところがミソ。表示しながら情報を取る「アンテナショップ」のような役割です。

どの人が、どのようなページを見たのかという情報は、Cookie(クッキー)とよばれるデータを利用者のPCに保存させることで識別可能になります。閲覧履歴をもとに「この人は料理に興味がある」「この人は最近リフォーム会社の事例を頻繁に見ている」といった嗜好性を分析。興味・関心別の広告メニューに分類し、そのメニューに出稿した広告主の広告を表示するという訳です。

マスメディアを中心に、大規模に展開することが基本だった広告は、このようなネットテクノロジーによって、より高効率、より繊細に実施できるようになりました。これまで、広告やプロモーションに縁のなかったBtoB企業や、中小企業にも成功のチャンスが拡がっているといえるでしょう。

(2009/08/05 中部経済新聞掲載)

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