第21回:ネットで楽しく走る方法

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年10月29日

日曜日、「第2回名古屋アドベンチャーマラソン」に出場してきました。

ハーフマラソンの部にエントリーしたのですが、タイムはさておき、初めての21kmを完走できたのは嬉しい経験でした。今や日本中がランニングブーム。ネットの仕事が中心でスポーツとは縁がなかったのですが、走り始めたきっかけもまた、インターネットでした。

AppleとNikeが展開中の「Nike+」をご存知でしょうか?今ではiPhoneの標準アプリケーションにもなっていますし、日本ではMixiアプリとしても登場しています。スニーカーにセットする小型の加速度センサー(万歩計のようなもの)や、データをiPodで受信するためレシーバー等がAppleから、センサーを埋め込むことのできる特別仕様のスニーカーがNikeから、それぞれ発売されたのは、日本では2006年の年末。いまから約3年前のことです。

音楽を聞きながら走る、というだけでなく、自分のランニング履歴をネット上に記録しながら、世界中の人たちと競争し、目標をクリアして喜び合うという体験は本当に新鮮でした。ランニングに最適な音楽も取り揃えられ、Appleの音楽配信サイトで購入することが可能。楽しく走り終わったらパソコンにiPodを接続すると、計測したランニングデータが、Nikeが運営するNike+のサイトにアップされる仕組みです。

世界中のユーザーが走るたびに同じようにデータをアップすることで、世界最大のランニングデータベースでありコミュニティとなったNike+は、折りしも始まったブログブームと同調して世界中に拡大しました。

現在のランニングブームの出発点です。結果、「孤独で地味でローテク」な印象だったランニングは、「楽しくお洒落でハイテク」に生まれ変わり、莫大な市場を作り出しました。

世界中のランナーがインターネットを活用できる世界、コストや時間に関する基準が大きく異なる世界を基準に、全く新しいサービスとしてデザインされたこのプロジェクト。「走る」という最もプリミティブな活動を大きなビジネスに育ててしまったこの事例は、ブランドやサービス、商品に関する既成概念を大きく覆すものでした。

もはやNike+は当たり前の環境。いつのまにか21kmを楽しく走ることができるようになった自分の事を考えると、本当にすごいなぁと改めて思うのです。

(2009/10/28 中部経済新聞掲載)

第20回:サイト刷新予算は計画的に

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年10月22日

深まる秋、来期の「コミュニケーション予算」についての相談が増える季節になりました。

全体的な広告費は縮小の傾向にあるなか、インターネット関連の予算は増やしているという企業が多いようです。実利に直結する、効果が測定できる、コスト効率が良い場合が多い、ノウハウが蓄積できる、等、様々な理由で取り組まれているネット関連ですが、その成否には予算の組み方が大きく影響するものです。

さて、予算の組み方ですが、特に「サイトリニューアル」については注意するべきポイントがあります。

それは1回のリニューアル作業で「予算を使い切らない」こと。リニューアル後の調整、改善を視野に入れておくと言うことです。

サイトリニューアルとはあくまで想定に対して戦略を練り、策を試すことです。事前にアクセスログを解析し、構築の専門家の意見を聞き、マーケティングのフレームを確認するなど、多くの準備をするのは当然ですが、それらはあくまで想定をつくる作業であり、結果は予想でしかありません。

リニューアルの結果、クリック率が思うようにあがらなかったり、場合によってはコンバージョン(顧客転換率)が以前より低下することもあります。リニューアルの結果から、新たな課題や方法論が見えてくる事は多いものです。

例えば、アクセスログを解析しても分からないことの一つに、「現在来ていない人の動き」があります。来ていないのですから当たり前ですが、サイトリニューアルによって生まれる「新たなユーザー」の動きは予想が難しく、リニューアル後に見いだしていくしかありません。

リニューアルによって想定外のページからの進入が増えることもあります。状況を正しく確認しながら、適切な導線に修正することで、効果を上げるチャンスなのですが、予算が確保されていないと、対応できないという「もったいない」事態になってしまいます。

全体予算のボリュームにもよりますが、10-20%ほどをリニューアル後の改善費用として確保しておくと良いでしょう。

「クリック率を考えたボタンデザインの変更」「直帰率を抑えるためのページデザインの変更」「スタッフの運用実態に対応する更新システムの改修」など、アクセスログやアンケートなどを基に改善することで、予想と実際を近づける事ができ、適切な成果が手に入ります。

「画竜点睛」。小さな「調査・設計・改修」のセットを2-3回繰り返して、リニューアルは完成するのです。

(2009/10/21 中部経済新聞掲載)

第19回:Web担当者に必要な資質

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年10月15日

Webサイトのプロデューサーに必要とされるスキルとしてよく挙げられるものに
・マーケティング能力
・ブランドマネジメント能力
・システムやデータベースに関する知見
・プロジェクトマネジメントの経験
・クリエイティブセンス
・情報設計力
・コスト管理能力
・部門を越えた交渉力や発言力
といったものがあります。

これは、とりもなおさず企業のWeb担当者にも求められる能力ですが、実際に上記の条件を備える人材はいるのでしょうか。

15年以上企業Webサイトのお手伝いをしていると、数百人のWeb担当者さまとお付き合いをさせていただくことになりますが、そんなスーパーマンと出会うことは滅多にないものです。もし心当たりのある方、弊社プロデューサーとしてスカウトしますのでご紹介を・・・という冗談はさておき、Web担当者に求められる技能範囲やレベルが高いのは事実。

しかし、実際には「若い人が向いている」とか「パソコンが好きそうだ」という理由で実際の資質と異なる人員が登用されていることが多いように思います。

「社内に前例が少なく、新規の技術や方法論が多い中で、的確な情報収集を行い、最適な仮説を立てた上で、その検証をしながら、企業としての判断を繰り返す。」のがWeb担当者の仕事。特に難しいのは、コミュニケーションや調整能力です。

実際のWeb構築・運用プロジェクトは、広報IR担当、宣伝担当、サポート担当、開発担当、営業担当、システム担当など、様々な領域のメンバーが参加する横断的なものとして設定されるのが通例です。

しかしながら、参加メンバーは通常業務でWebを扱っているわけではなく、もちろんWebリテラシーが高いわけでもありません。

各メンバーの理解を進めながら目的を設定し、プロジェクトを成功に導くためには自信のWebリテラシーだけでなく、部署横断プロジェクトにおける情報提供者や合意形成者としての役割、コスト配分も含めたプロジェクトマネージャーとしての役割が求められることになります。ネットへの興味や、プログラムの能力とは別のビジネススキルが重要になるのです。

社内に足りないリソースは外部のWebコンサルティングや制作会社など、専門家の知見や技術を効果的に取り入れることで担当者のスキルをアップし、「企業内にWeb活用のノウハウを蓄積」することが重要です。

(2009/10/14 中部経済新聞掲載)

第18回:ソーシャルな欲求引き出し

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年10月8日

前回は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)とソーシャルアプリのパートナーシップについてお話しました。

SNS側は、「ユーザーデータの取り扱い」をプラットフォームとして提供。アプリ開発事業者はSNS上で楽しめるアプリをビジネスとして展開。結果的にSNSの利用者・利用率拡大につながり、アプリユーザーも拡がるというストーリーです。

そのためには、ユーザーをリピートさせるビジネスとしての「常習性」「口コミ性」「換金性」が重要だとお話しました。Facebookで世界的に大ヒット中の農場運営ゲーム「FarmVille」を題材に、ご説明いたしましょう。

SNSの中で動作する、ソーシャルアプリの基本機能は、
・「自分」や「友達」の情報を取得して、ゲーム上に表示する
・アプリ上でプレイした内容情報を保存する
・保存された内容を、「友達」に通知する
・SNSの各種アプリケーション(メールやユーザー検索など)にデータを渡す
といった単純なものですが、これらを組み合わせることによって、実に巧みに「ハマル仕組み」を構築できるのです。

1.ゲーム自体の新規性や独自性より、「友人との体験共有」に重点がある。
・友人同士の畑を行き来して自慢したり、ほめたりできる。
・友人とギフトを交換すると、自分で買うよりずっと楽。(助け合い)

2.定期的に訪問してもらうための、「わかりやすい理由」がある。
・定期的に収穫しないと、枯れてしまう。
・日に一回、友人にプレゼントができる。

3.ゲームに参加していない友人を巻き込める「勧誘・口コミツール」がある。
・新しい友人をゲームに参加させるとレベルアップが早い。
・SNS内にレベルアップなどの記録が表示される。(友人がクリックするとボーナスがシェアされる)

4.収益モデルとして、仮想通貨の直接販売とアフィリエイトを共用。
・ゲーム内の仮想通貨の価値を上げた上で、直接販売する。
・会員登録やアンケートの記入などにより仮想通貨を支払う「アフィリエイト」。

重要なのは「友人関係」というエネルギーを源泉に、「互いに楽しんでもらう」媒介システムに徹していることでしょう。お互いのちょっとした努力を認め合い、センスや資金力を自慢しあい、互いに協力しあって向上していく。

人間が根源的に持っている「ソーシャルな」欲求を巧く引き出すことは、これからのネットプロモーションでも重要な課題となるに違いありません。

(2009/10/07 中部経済新聞掲載)

第17回:動員・継続のための「仕掛け」

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年10月1日

朝9時30分、せっせと農作物を収穫する私のアバターを眺めながら、農場の拡張計画を考えるのが最近の日課・・・・もちろんPCの画面上、ゲームの話です。

ミクシィやグリー、FacebookをはじめとするSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で、ユーザー同士が関係しながら楽しめる、手軽なゲームが流行しています。

「単純なのに、つい続けてしまう。」「友達を巻き込んで、ブームになっている。」ゲーム業界でも新規性や独自性でヒットを出すことが難しい今、なぜソーシャルゲームアプリなのか。成功の条件は、「動員・継続」のために巧妙に設計された「仕掛け」にあるようです。

ミクシィが、満を持して導入した「ミクシィアプリ」が正式リリースされて約1ヶ月、当初100点あまりだったアプリも、徐々にそのバリエーションを増やしています。なつかしいゲームや、コミュニケーション機能、笑いのネタなど、決して派手なものではありませんが、ミクシィの利用率や「マイミク」との交流促進に成功しており、今後の展開が期待されます。

一方、全世界で2.5億人の会員を有するといわれるFacebookでは、「Facebookアプリ」の展開実績、アプリのバリエーションや影響力も桁違い。私がFacebook本社、Facebookアプリを開発する「RockYou」社をシリコンバレーに訪問したのは08年の11月でしたが、その時点ですでにアプリの影響力は大きく、Facebookの活性化を牽引する存在としてのパートナーシップが実現していました。

・SNS側は、「ユーザーデータの取り扱い」をプラットフォームとして提供。
・アプリ開発事業者はSNS上で楽しめるアプリをビジネスとして展開。
・結果的にSNSの利用者・利用率拡大につながり、アプリユーザーも拡がる。

というストーリーです。

アプリの開発者はユーザーをリピートさせるビジネスとして、
1.「常習性」
2.「口コミ性」
3.「換金性」が特に重要だと教えてくれました。

冒頭にご紹介した大ヒットの「農業ゲーム」。「種まき」や「収穫」といった活動があり、来訪者との協働や作物の売却というイベントがある「農場」には、「何度も訪問してもらう」ための条件が揃っているような気がします。

次回はこの農業ゲームを題材に、謎解きをしていきましょう。

(2009/09/30 中部経済新聞掲載)

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