急速なデジタルシフトを背景に「CRM(Customer Relationship Management)」の注目が高まっています。しかし、実際にCRMを導入している企業はまだ4割にも満たない程度です。今まさに導入を検討中で、この記事へたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
出典:『HubSpot年次調査:日本の営業に関する意識・実態調査2023』
CRMを効果的に使うには「どのツールを選ぶか」という具体的な比較に入る前に、理解しておくべきポイントがあります。それはCRMの大前提である顧客視点の考え方、そしてCRM導入後の「運用イメージ」です。
本記事では「CRMとは何か」の基本から導入のメリットまで改めて確認し、どのような企業にCRMが必要か、おすすめのCRMツールまで解説します。
CRMはCustomer Relationship Managementの略称で、日本語では「顧客関係管理」と訳されます。CRMの関連記事で「CRM=顧客管理ツールの総称」の意味で用いられることもありますが、厳密にいえばそれは「CRMシステム」のことをさしており、CRM(顧客関係管理)という経営手法の手段に過ぎません。
まずはCRMの広義の意味での「CRMを活用したマーケティング」と、それを実現する具体的なツール「CRMシステム」についてそれぞれ理解しましょう。
サービスや商品を提供する企業が顧客情報を管理・活用しながら、顧客との良好なコミュニケーションを重ね、親密な信頼関係を構築、優良顧客化させることで継続的な取引や売上の向上をめざす経営手法をさします。
顧客がそれぞれに抱えている課題やニーズをリアルタイムで把握し、それに合わせた最適なアプローチを行うことで機を逃さず製品・サービスを提供しようというもので、企業目線ではなく顧客目線に立ったアプローチ方法です。
このアプローチに欠かすことができないのが「CRMシステム」です。
優秀なビジネスマンが行っている顧客目線のコミュニケーションを、企業全体のマーケティングに活用することができます。
CRMシステムとは、顧客情報を収集・管理・分析できるツールのことです。顧客の氏名・役職、連絡先などの基本情報はもちろん、DMの開封率やURLのクリック率などオンライン上の行動履歴もリアルタイムで把握できます。
また、顧客に関するあらゆる情報をひとつにまとめ、簡単に共有できるのもCRMシステムの特長です。例えば、営業担当者が商談内容をCRMシステムに入力すれば、それは新たな顧客情報として蓄積され関係者全員にそのまま共有されます。
そもそもなぜ今、多くの企業がCRMを必要としているのでしょうか。そこには急速なデジタルシフトだけではない切実な理由があります。
高度成長期やバブル期など景気の良かった時代は新規顧客の獲得が今よりスムーズでした。しかし、景気の低迷や人口減少により市場規模そのものが縮小し、新規獲得が難しくなっている業界は少なくありません。
そうした中でいわれ始めたのが、長く安定した取引を続けることで、ひとつの顧客がもたらす総利益=LTV(Life Time Value)を向上させるという考え方です。
優良な顧客を手放さないためには顧客満足度を高めることが重要です。そこで顧客を深く知り、そのニーズを的確に捉え、課題解決につながるようなコミュニケーションを行う手法として、CRMに注目する企業が増えているのです。
関連記事:アップセル・クロスセルとは?顧客単価を上げる具体的な手法と注意するポイント
インターネットやスマートフォンの普及によって、BtoBビジネスにおいても製品・サービスの比較検討が一気にオンラインへシフトしました。検索ひとつで情報を得られる状況は、BtoBもBtoCと同様なのです。
つまり、こちらが一方的に安定的な得意先だと思っていても、知らない間に顧客が競合へ流れてしまう事態も簡単に起こります。
競合への乗り換えを危惧して単価を上げたくても上げられないこともあるでしょう。
しかし、顧客は本当に価格だけで判断しているのでしょうか。顧客は常に様々な課題を抱えているはずです。
最適な提案を持ってくる企業は顧客にとっても優良な取引先であり価値があります。課題を把握して・提案するには、顧客の情報をしっかりと収集することが有効なのです。
関連記事:リードナーチャリングとは?必要性とリードの育成方法、成果をあげるツールを解説
人口減少により働き手の数が減少していく反面、DXの進展によって得られる顧客情報は膨大になっています。いまや情報は得ること自体より、手に入れた膨大な情報をいかに効率よく最適に活用できるかが重要です。
CRMシステムは、随時更新されていく顧客情報を管理し、同一部内はもちろん、マーケティング、営業、カスタマーサポートと部門横断でスムーズな情報連携ができ、顧客情報にあわせた施策のオートメーションや分析の効率化がはかれます。
CRMシステムは「顧客情報の収集」「顧客情報の管理・分析」「顧客とのコミュニケーション」の大きく3つの基本機能があります。
まずは土台となる顧客の基本情報を収集します。会社名や担当者の氏名、連絡先などのデータを蓄積します。CRMシステムでは、すでに取引のある既存顧客が主流でしたが、これから育成する見込み客(リード)も含めた全ての顧客情報を一元管理することで、情報の連携と活用範囲が広まります。
こうしたベースの基本情報に、顧客からのお問い合わせ状況や自社サイトの閲覧履歴などWeb上の行動データ、さらに商談や取引の状況などを随時追加することで、常に最新の顧客情報を蓄積していきます。
顧客データを収集し、随時更新すれば常に顧客の最新状態が分かります。
行動履歴やコミュニケーション履歴を見れば、顧客が何に困っているか、何を必要としているかを知ることができますし、ニーズを的確につかむことで精度の高い提案ができるわけです。
また、すでに複数の優良顧客を抱えているなら彼らの履歴をたどることで、どういう人が将来的に優良顧客になり得るか、どんなアプローチが有効かという成功パターンを導くこともできます。反対に、失注した場合もその原因を履歴から分析できるでしょう。
つまり、CRMシステムで顧客情報を最適に管理すれば、成功はもちろん失敗でさえ、自社の資産にすることができるのです。
CRMシステムにある顧客情報をもとに、顧客に働きかける具体的なアクションの質をあげることができます。
例えば、DMの送信やセミナーの告知、募集フォームの作成・集計などは、単なる一斉送信ではなく、製品への興味・関心など顧客情報に基づきセグメントしてアプローチすることができるので、高いリアクションが期待できます。
CRMと並んで注目されるのが、MA、SFAです。
CRMは顧客の情報を管理していくことが主用途ですが、MAやSFAを連携することで蓄積する顧客情報や活用するコミュニケーションへの幅が広がるため、セットで語られることが多いでしょう。それぞれ、以下の通りです。
MA(Marketing Automation)は主に顧客になる前の状態、いわゆる見込み客(リード)の管理・育成に使われるシステムです。まだ見込み客になる前の人、将来的になりそうな人を探す段階から始まり、そうして集めた人を関心度で選別したり、それぞれに適したアプローチを行いながらリードへ育成し、営業部門へ引き渡します。
顧客になる可能性のある人たちを見つけ、選別し、育成する。この一連の流れをシステム化することで営業部門へ引き渡すリードの質を底上げし、営業活動の効率化を図るのがMAの目的です。
SFAは(Sales Force Automation)は営業支援システムと訳され文字通り、営業活動全般を管理・サポートするものです。
特徴的なのは、顧客自体というより「案件」を軸とする点で、案件や商談に関する進捗情報を管理し、成約までの営業タスクの管理や目標予実管理などが行われます。
企業がコストをかけてCRMシステムを導入する最終的な理由は、冒頭でご説明した通り、見込み顧客との商談情報などの共有による新規営業活動の支援および、成約後は優良顧客化による売上の向上となります。
では、CRM導入による具体的なメリットとは何でしょうか。
顧客情報は、接する部署によって得られる情報が異なります。
マーケティング部門では、リードとして企業名や担当者名、初期接触のイベントなどの情報を取得しますが、具体的なニーズや温度感などはイベントで実際に話したり、商談を行った営業部門が詳しくヒアリングするケースが多いでしょう。
また成約後はカスタマーサクセス部門が、サービスや商品を利用する際に見えてきた新たな課題や要望などを受け、提案・解決を重ねるでしょう。
このように、ひとつの取引先に対して各部署が持つ顧客情報のパーツが異なることは、よくあるケースです。CRMシステムを用いれば、見込みリードから長年の既存顧客まで、最新情報を一元管理することができるのです。
最近ではインサイドセールスやオンラインのカスタマーサポートなど非対面の顧客対応が増えています。一日のセールス活動量もクイックに行われることが増え、顧客から得た情報も刻々と変わります。
CRMシステムでは、同時に各部署が情報を更新することができ、またその最新情報を共有することができるため、後続の部署や別製品の営業担当者によって生かせることもあるでしょう。部門の垣根を越えて最新情報を共有することは、ビジネスチャンスにつながります。
MAはマーケティング部門が、SFAは営業部門が主に活用するシステムですが、CRMで連携することでマーケティング・営業のコミュニケーションの質を上げられます。
マーケティング部門がより確度の高い見込み客(リード)を絞り込み、営業部門へ即座に情報共有を行うこともできますし、成約につながらず商談後に見込み客としてマーケティング部門の管轄へリードが戻る際も、過去ヒアリングした内容が残っているため、どちらの部門のフォローも質よく効率化できます。
CRMによって顧客それぞれを良く知れば課題やニーズを見つけやすくなります。抱えている課題を解決する製品・サービスの提案は、顧客にとって不要な押し売りではなく、良質な情報です。
こちらだけが「売りたいもの」ではなく顧客目線に立って相手を知り、必要な情報を提案することで顧客との良好な関係が築かれます。
顧客満足度の向上から、自社の利益へつなげる「CRMを活用したマーケティング」の要でもあります。
CRMシステムは有効に活用してこそ成果を生みます。CRM活用の5つのポイントは次の通りです。
まずはCRMを導入する主目的をしっかり定めましょう。
顧客情報管理の属人化防止、既存顧客の解約率低下、アップセル・クロスセル、新規獲得など段階的でも構わないので、CRM導入の主目的を定めると導入後がスムーズです。
設定した目的に対して評価指標を設定することも重要です。
優良顧客に対してはLTV(顧客生涯価値)の向上や最大化、営業活動においては「新規契約数〇件」「売上〇%アップ」など数値化すると分かりやすいでしょう。
具体的に決めて定点観測することで、CRM導入の効果や継続・拡張の判断材料になります。
CRMシステムは最新の顧客情報をリアルタイムで共有できるのがメリットですが、全ての情報が自動取得されるわけではありません。
商談や取引など担当者レベルで得た情報は、都度更新していく必要があります。情報の精度を維持するためにも、それぞれの部門で何の情報をいつ更新するかなどを業務フローに組み込み、運用体制を整えましょう。
CRMシステムは蓄積したデータをもとに、購買頻度や購入金額などから優良顧客を把握したり、成約率や満足度を上げるプロモーション効果やリード属性の傾向を振り返ることができます。
自社が収集し、蓄積したリアルな顧客データだからこそ、コンバージョンや成約数値だけでは読み解けなかった精度の高い分析ができ、顧客に響く効果的な施策改善ができます。
CRMの顧客情報は属性だけでなく、DM開封や自社サイトの閲覧といったWeb上の行動履歴、セミナー参加歴なども把握できるため顧客の関心度に合わせて戦略を練ることができます。
そうした個別の理解に加え、顧客全体の傾向を読みとれるのも特長です。多くの顧客が抱える共通の課題が分かれば、それを軸とするコンテンツで高い関心が引けるでしょうし、様々なインバウンドマーケティングの強化に役立てられるわけです。
関連記事:「目的ドリブン」なCRM選定のための5つのステップ
CRMが必要なのは次のような課題がある企業です。
顧客情報管理を担当者個人や部門別に行っており、属人化や情報共有の偏りが原因でトラブルが起こっているならCRMシステムの導入が解決の糸口になるでしょう。
また、「見込み客(リード)」「営業アタックリスト」「既存顧客」など段階や層ごとに複数の管理ツールで顧客を別々に管理している場合もCRMシステムで一元化、スムーズな共有が可能になります。
顧客情報をエクセルやスプレッドシートで管理している企業も少なくないはずです。社名や連絡先などほぼ変化のない基本情報はたしかにエクセルでも管理できます。
商談などの履歴もこまめに更新しているので十分管理できていると考えているかも知れません。しかし、エクセルは「顧客のオンライン上の行動履歴を自動的に蓄積」することはできません。
CRMシステムは、顧客が自社サイトのどのページをどのくらい閲覧したか、送ったDMを開封したか、メールに記載したどのURLをクリックしたか、といったオンライン上の行動履歴を把握できます。つまり、顧客が今まさに欲している情報を知ることで顧客のニーズをリアルタイムで把握し、最適なアプローチにつなげられるのです。
まめに営業活動をしているのに成約につながらない、商談しても受注に至らない、2回目の受注がない(リピーターにならない)といった状況が続いているなら、顧客のニーズを満たせていないのが原因かもしれません。
CRMシステムを活用すると顧客のリアルタイムの状況が分かり、ニーズを知ることができます。顧客情報という資産を蓄積し分析することで、効果的な営業活動につなげましょう。
どのCRMシステムを選べばいいか迷っている方、HubSpot(ハブスポット)はご存知でしょうか。HubSpotは無料のCRMをベースに、MA機能やSFA機能が備わった様々なソフトウェアを追加し、一元管理できるプラットフォームです。
様々なシステムを使い分ける必要がない点は特に、各担当者の負荷軽減につながるほか、システムエンジニアがいなくとも運用体制構築を行えることも特徴です。
また、多くの外部ツールとも連携可能なため、現在のツール活用状況や企業の特性にあわせたCRM活用をスタートできますし、まだMA、SFA、どのシステムから導入すべきか迷っている場合は、課題や運営体制に合わせたスモールスタートも可能です。
いかがでしたでしょうか。新規顧客の獲得がますます難しい時代になり、売上拡大には顧客満足度の向上が不可欠になっています。
そこで注目されているのがCRMです。ニーズを捉え、課題を解決する提案は相手を知ることから始まります。CRMは今後、ビッグデータによる収集データ量の拡大やAIによる行動予測などさらなる進化も期待されています。
導入から具体的な成果を上げるまで一定の期間がかかることを踏まえると、まさに今がCRM導入の好機といえます。
中長期的に活用し成果を上げていくシステムですから、自社の課題を解決する目的や機能に沿って選ぶことが、システム導入の成功の秘訣です。
CRMシステムやマーケティングでの活用にご不明な点や、なにから着手すればよいか迷われることがありましたら、ぜひ私たちタービン・インタラクティブにお気軽にお声掛けください。